“里山の秋”が絵からあふれるような本です。
お話のはじまりは夏。
ひとりぐらしのおばあさんが、川のそばの畑で野菜をつくっています。
あるときから、野菜が食べごろになると、だれかがとっていくようになりました。
トマトもきゅうりも、「だれかがてつだってたべてくれれば、ありがたいくらいのもの」とおばあさんは怒りもしません。
それにしても、とっていくのはたぬきだろうか、いたちだろうか。
気になって仕方がないおばあさんは、こっそり見守ることにしました。
すると……!?
川からあがってぼたぼたしずくを落としながら、野菜をもいでいくのはカッパでした!
腰をぬかすほどおどろいたおばあさん。
でもそれからは、カッパが野菜をもいでいくのが楽しみでたまりません。
もっともっていけ、トウモロコシもそろそろ食べられるぞ、と心のなかで応援します。
木のかげから見守りながら……。
ダイナミックに色彩あざやかに描かれた草木や昆虫と、おおらかなおばあさん。
そして愛嬌たっぷりのカッパの表情が見どころです。
おばあさんとカッパは一度も言葉を交わしませんが、心は通じ合っていたのだとわかります。
『さけがよんひき』というタイトルの意味は、最後まで読み終えたときにわかりますよ。
なんとものどかで、ほっと一息つきたくなるお話。
おばあさんのセリフを声に出して読むのも楽しいです。
のびやかに季節の色がうつっていく空気を、絵本から胸いっぱいすいこんでくださいね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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