何の境界もなく、ただ自分がそこにいて、思うように振る舞っていたのは何歳の頃だったろう。好きなことを好きなだけして、人の目なんて気にしたこともなかったあの頃は。
「わたしが なにでもなかったころ
わたしは どんなものにだって なれた」
誰しも自由だった子ども時代。けれど、それが突然失われてしまうことがある。自分は自分でいるはずなのに、ここにいるのは自分ではなくなってしまっているのだ。壁にぶつかり、何かがのしかかり、選ばなくてはならなくなる。
「おんなのこですか おとこのこですか
まんなかですか」
何でもなかった頃の自分を取り戻そうと、「わたし」は勇気を持ってそこへ飛びこむと……。
自らのセクシュアリティをめぐる生きづらさと向き合い、エッセイや様々なメディアでその思いを発信されてきた少年アヤさん。「なにでもない」自分に戸惑い、苦しくて孤独な気持ちを抱える子どもたちに向けて書かれたのがこの物語です。
男でも女でもない、ノンバイナリーを自認するに至った少年アヤさんの葛藤を、画家の阿部海太さんが力強くも美しい絵で表現。絶望や悲しみを感じると同時に、絵本の中には、あたたかく透き通るような、あらゆる色彩の光があふれています。
自分を肯定し、思いのままに生きていく。ある人にとって、これがどれほど難しいことなのか。知らず知らずのうちに、その誰かの道をふさいでしまっているのではないだろうか。
孤独を感じる全ての人に、そして子どもたちを見守る全ての人に、読んでもらいたい一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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