5月2日に92歳で亡くなった絵本作家かこさとし(加古里子)さんが『だむのおじさんたち』でデビューしたのは1959年でした。
かこさんが33歳の時です。
子どもの絵本としてはダムというのは結構地味な題材だと思うが、月刊絵本「こどものとも」の編集長松居直さんは「泥くさいが暖かみがある」と採用を決定したといいます。
かこさんの素晴らしさを松居さんが見抜いたということでしょう。
そして、それから数年して描いたのが、この『かわ』という絵本です。
1962年に「こどものとも」に掲載され、1966年に単行本として刊行されました。
この作品はそのあと2016年に絵巻じたてで刊行されるほど、長い期間にわたって子どもたちに愛される作品になりました。
「しぜんのできごとは、じゃまでいらないようなことでも、かならずどこかでかかわりあい、たすけあっているのがすばらしい」とかこさんはある文章に書いています。
この『かわ』という作品こそそんなかこさんの言葉そのもののような気がします。
「たかいやまにつもったゆきがとけてながれます。」、この言葉からこの絵本は始まります。
描かれているのは雪が残る山の峰々。
そこが川の始まりです。
滝になって落ち、谷川になってくだり、ダムにせき止められ、木々を運び、岩を削り、土砂を動かし、田畑を潤し、人々の営みを豊かにしていく。
そして、次第に町に流れ込んでいきます。
川のおわりに「かわはすっかりよごれてしまいました」と書かなければならないことに、かこさんはつらかったと思います。
だから、最後のページに真っ青な海を描いて、私たちにエールをおくってくれました。
「ひろいせかいへー」と。