これは、本。まっしろな画面に文字だけが浮きあがる、本。
ボタンもないし、音もしない。変わったところは、なにもない。
でも……よく見て。もっとよく見て。
ほうら、目の前に突然広がったのは、まったくの別世界。
あなたが想像した、あなただけの世界。
そこでは、どんなことでも起こるし、なんでもできる。
不思議なともだちがたくさんいて、ずっと遊んでいることもできるし、
ひとりになることだってできる。
誰もじゃまなんかしない、自分だけの時間!
ぱっと見た目は控えめで、目新しいこともないけれど。それでも、本の一番の魅力というのは、いつでもそばにあるということ。すぐに抱きしめることができ、世界に入りこむことができる。時には自分の道を照らしてくれることもあれば、拠りどころとなってくれることもある。
本に触れる素晴らしさを、本の形の中で描きだすこの絵本。短いけれど、まっすぐに伝わってくる言葉。静かだけれど、想像力をどこまでも広げてくれるような、幻想的な絵。その両方をゆっくりと味わいながら、子どもたちが本の魅力を自分で発見していくことができたなら。こんなに嬉しいことはありません。
世の中はどんどん便利になり、生活の中で扱うデジタル機器だって増えていきます。それでも、紙の絵本がなくならないのは、確かな存在理由があるから。実際に手にとり、声に出し、手ざわりを確かめながら、ページをめくっていってくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む