「音」がこの絵本の魅力の一つかもしれません。「ントゥングル・メンゲニェ」。日本語にはない「ン」から始まるその不思議な響きに、我が子はすっかり心を奪われ、何度も口に出して楽しんでいました。遠いタンザニアの言葉の響きが、一瞬で物語の世界への扉を開けてくれたのです。
その扉の向こうに広がるのは、作者ジョン・キラカ氏がティンガティンガ・アートを礎に描く、躍動感あふれる世界です。鮮やかな色彩とユーモラスな動物たちの表情が、耳に残る言葉のリズムと一体となって、私たちの五感を豊かに刺激します。
作者が村の語り部から聞き集めたという素朴な民話が、なぜこれほどまでに生き生きと感じられるのか。それは、文字情報だけでなく、異文化の音や色彩といった、身体で感じる要素が豊かに詰まっているからでしょう。
まるで作者本人が、私たちの隣で語り聞かせをしてくれているかのようです。絵本という静的なメディアを通して、ダイナミックな口承文芸の楽しさを見事に伝えてくれる。そんな稀有な一冊でした。