日本の昔話には、迫力ある版画が良く似合いますが、この本の絵の迫力は圧倒的です。手に取った瞬間、表紙の和尚さんの後姿に目が釘付けになります。中を開かずにはいられないような、ゾクゾクするような感触…。ちょうど、ゲゲゲの鬼太郎の妖怪図鑑を手にした時の感覚に似ています。4歳の息子は、ここで逃げ出しました…。
見返しの絵からは、ひっそりとした、つめたい山の空気を感じ、これから繰る頁に期待が高まります。
柿色、藍色、墨色…、といった日本独特の色合いも、雰囲気を高めていて、どんどん、お話の世界に引き込まれます。
山姥の節くれだった手、白髪の一本一本の描写も素晴らしいのですが、頁のレイアウトもどこかモダンな感じがあり、デザインとしてもとてもすぐれていると思います。
画だけではなく、追う山姥と、夢中で逃げる小僧の息遣いが聞こえてくるような文章も迫力満点です。「やまんばは、すべっちゃあがり、すべっちゃあがりしながら、すな山をこえてきました。」なんていう所は、まさにホラーの世界です。
こんな恐ろしい山姥にも、和尚さんにはかなわない。現代の世の中で宗教の力を感じる場面は、身近には少なくなりましたが、神様や仏様や、それを祭る場所、仕える人たちに対する畏敬の念を持つ、という感覚は、こういった昔話からも子どもたちに伝えられてきたのだろう、と感じました。