児童文学者あまんきみこさんが1982年に刊行した絵本『ちいちゃんのかげおくり』は、挿絵を担当した上野紀子さんの描く女の子のはかない表情があまりにも心にささってきます。
物語の舞台は身体の弱い父親さえも兵隊に徴兵されるようになった戦争末期の私たちの国。主人公のちいちゃんはまだ小さい女の子。やさしいお兄さんがいます。
お父さんが出征する前の日、お母さんとお兄さんとちいちゃんで「かげおくり」という遊びをします。
「かげおくり」というのは、「かげぼうしをじっと見つめて、しばらくして空を見上げると、かげぼうしがそっくり空に写ってみえる」そんな遊びです。
ちいちゃんたちは記念写真みたいに空に写った家族4人の「かげぼうし」を楽しみます。
しばらくはちいちゃんとお兄さんは「かげおくり」で遊べましたが、やがて戦争が激しくなってもう空は以前の青空ではなくなりました。
そして、町に空襲が始まりました。
ちいちゃんの住む町にも爆弾が落ちてきて、ちいちゃんはお母さんとお兄さんとで逃げます。でも、ちいさなちいちゃんはお母さんたちとはぐれてしまいます。
それでもちいちゃんは元あった自分の家でお母さんたちを待ちます。
待っても待ってもお母さんたちは帰ってきませんでした。
そして、ちいちゃんもまた夏の朝、お母さんたちの「かげぼうし」を追うように空に昇っていくのです。
戦争で亡くなったたくさんのいのち。
今でも世界のあちらこちらで行われている戦争で、ちいさな命が失われています。
この絵本が私たちに伝えようとしている思いをどうか世界中に広がりますように。
そして、今でも忘れることなく、この絵本が読まれますように。