さくらさんという名前のおばあさんがひとりで営んでいる、並木通りの「アカシヤ薬局」。
近くにドラッグストアができてからは、ぱったり客足が途絶えています。
「あたしはもう、じゅうぶん働いた! 明日から閉店セールをするよ」
店をたたむ決意を固めて、店先に閉店セールを知らせるポスターを貼ったさくらさん。
しかし、思わぬ横やりが入ります。
「それじゃ、宣伝不足ですよ」
口を出してきたのはなんと、名前をつけて店に置いておいた、招き猫のフクノ介!
「招き猫がえらそうに! そもそもあんたがお客を招かないせいじゃないか」
さくらさんにそう言われたフクノ介は、閉店セールを宣伝するためにチラシを作ります。
そのかいあって、アカシヤ薬局にさっそくお客さんが!
ところが……
現れたお客さんは、なんと妖怪だったのです!
よくよく見れば、フクノ介が作ったチラシは、「アカシヤ薬局」を「アヤカシ薬局(ばけもの薬局)」と書きまちがえているではありませんか。
そのせいで、やってくるお客はアヤカシばかり。
なぜだか湿布を買い占めてゆく、子どもを食べるという恐ろしい鬼
お母さんのなくした『かくれみの』探しに奔走中の、花粉症に悩むカラス天狗の兄弟。
街中でゆき倒れていたのは、原因不明の目の痛みをうったえる河童。
アヤカシたちの引き起こす様々な事件や、わがままにふりまわされて、アカシヤ薬局の閉店セールは大忙し!
アヤカシのための薬局とはありがたいと、騒動のたびに店をつづけるようたのまれるさくらさんでしたが、決してとりあってはくれません。
「とんでもない、あたしはもうじゅうぶんはたらいた。あとは気ままにくらすよ」
みどころはなんといっても、個性豊かな登場人物たち!
ひとくせもふたくせもあるアヤカシたちはもちろんのこと、主人公であるさくらさんのキャラクターがとても魅力的です。
さくらさんは、ドケチで、ちょっと怒りっぽくて、人付き合いが苦手。おまけにとても、くいしんぼう。
悲しい気持ちになると、決まって屋根の上にのぼり、空を見上げるという、なんともかわいらしいところもあって――
やさしくて、かしこくて、たよりがいのある、いわゆる「おばあちゃん」的なキャラクターとは一線を画しています。
そして、生真面目で少し臆病な、しゃべる招き猫のフクノ介。
さくらさんとフクノ介による名コンビのにぎやかな活躍は、この一冊を読み終えてしまうのがもったいないと感じさせてくれるほど。
それでも、やがて閉店セールは終わりに近づき、別れのときはおとずれます。
アヤカシたちは薬局を続けてほしいけど、当のさくらさんはやっぱり、もう働くのをやめて気ままにくらしたい……
みんながしあわせになる結末はあるのでしょうか?
不思議な薬局で巻き起こる、アヤカシたちの珍騒動!
(堀井拓馬 小説家)
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