色とりどりの花が歌う、ふしぎな町ロンド。
この町には、だれもが知ってる仲良し三人組がいました。
ぴかぴか光るガラスの体、電球の妖精みたいなダーンカ。
ピンクの風船犬、ふわふわ軽い、宝探しの名人ファビヤン。
折り紙の鳥みたいな見た目のジールカは、空を飛べて、旅が大好き。
三人をはじめとしたロンドの個性的な住人たちは、町での暮らしを心からたのしんでいました。
ところが、そんな平穏な日常を壊す、おそろしい影がロンドにやってきました。
戦争です。
ウクライナを拠点に活動するアートユニットが描く、平和な町と、壊された日常。その目も覚めるようなコントラストで、戦争の痛ましさを描き出した一冊です。
写真を組み合わせて作るコラージュと、ポップでかわいらしいグラフィックのキャラクター。
明るくやわらかな色で描かれる平和と、暗くおどろおどろしい色の戦争。
ファンタジックで詩的な世界観と、戦争というリアルなテーマ。
本作はそうしたいくつかの強いコントラストで構成されていて、それが両方の極の強烈な印象を、読者の胸に刻み込みます。
「ロンドの町の人たちは、戦争がどんなものか知りませんでした。
ところが、戦争は、どこからともなくやってきました。」
石で心臓を打たれて、ヒビの入ったダーンカ。ファビヤンはトゲで刺されて足がやぶけ、ジールカは火で焼かれて翼に穴があきました。そして、彼らの傷は物語の最後まで癒えることはありません。
戦争を止めるために、三人は相手のやり方をならいました。戦争の心臓を狙って、攻撃を返したのです。しかし、すべてむだに終わりました。
「なぜなら、戦争には心を心臓もないからです」
どうやっても戦争の歩みを止めることはできないとあきらめかけたそのとき、ロンドの町にある意外なものが、みんなの希望になって──?
作中で象徴的に描かれる、赤いヒナゲシ。これは、第一次世界大戦の戦死者を追悼するためのシンボルとして知られる花です。現実におおきな戦争が起きてしまった現在、その当事者たる著者らが戦争の悲惨と平和の愛おしさを子どもたちに向けて発信した、心ゆさぶられる作品です。
(堀井拓馬 小説家)
続きを読む