文章のない絵本です。同様のタイプの絵本としては、同じ西村繁男さんの『おふろやさん』や長嶺太さんの『かもつれっしゃ』を持っていますが、この『やこうれっしゃ』が一番出動回数の多いものです(『おふろやさん』に至っては、未だに手にしたこと無しです)。
もともとクルマは好きですが、電車にはあまり反応しなかった娘にこうした列車もの(本書や上記『かもつれっしゃ』以外にも数冊あります)を取り寄せたのは、列車の進行とともに移り変わる日本の風景を味わわせてやりたかったからです。しかし、この『やこうれっしゃ』にはこうした思惑をちょっと外された気もします。というのも、そこに描かれているものは風景ではなく、夜行列車の中で繰り広げられる名も無き一般庶民の「生活」だからです(この点、本書は乗り物の絵本というより、上記『おふろやさん』と軌を一にする作品かもしれません)。それはおよそ子供向け絵本が取り扱うようなものでは無いのかも知れませんが、そのことが逆にこの本の価値を再発見させてくれたように思います。今現在でも上野から金沢へ向かう夜行列車でこのような光景が維持されているのかどうかは不明ですが、それが既に過去のものであったとしても、列車内という日本での一生活空間を垣間見るには右に出る絵本はないのではないでしょうか。
ただし、絵を見ながら瞬時にいろいろなストーリーを考え出すのは容易な作業ではありません。特に自分から質問することができるようになる前の年齢の子供を前にしたときはなおさらです。従って、対象年齢は本書にも記載のあるとおり、四歳からというのが無難なところなのでしょう。
今のところ、二歳二ヶ月の娘もこちらが説明する列車内での「出来事」を黙って聞いているだけですが、これから先、言葉が発達し、好奇心もより高まる年齢になったとき、本書を介して風景とはまた異なったいろいろな「日本」を語ってやる機会が訪れるよう期待したいです。