北海道の左上にある天売島という小さな島。
300人ほどの島民が暮らすこの島には、毎年春になると100万羽もの海鳥たちが海をわたってやってきます。
本書は、この島に渡ってくる8種類の海鳥たちをめぐる物語です。
まっさきにわたってくるのが、ウミネコ。
この鳥の鳴き声を聞くと、島民たちは春を感じます。
天売島の西側のがけは、海鳥たちにとって卵を産んでヒナを育てる大切な場所。海鳥たちが巣を作る場所は種類によって違います。
岩の割れ目の奥で、くぼみで、岩棚で……草木や土の斜面で。それぞれに卵を産み、抱きます。
島の中にある、強い風を受けてぐねぐねとまがった木の枝、木々の間を流れる冷たい雪どけの水、緑濃い沢。この豊かな森で鳥たちは子育てをするのです。
初夏。漁をする舟の上を魚をくわえた海鳥たちが飛んでいきます。ヒナたちのエサを捕るためです。
ウトウは魚とりの名人。群れで海にもぐり、魚の群れをぐるりと取り囲み、逃げられないように海面まで追い上げてから、魚をくわえます。なんと40匹もの小魚をくわえて戻ってくるウトウもいるそうです。
夏になると、日に日に成長していくヒナたちは海に入ります。
ウミガラスのヒナは、まだはばたいても落ちてしまう小さな翼ですが、海に降りて必死に親鳥のもとへと泳ぎつきます。
ほかの海鳥たちも次々と海におりて、夏が終わる前に、遠い海へと旅立っていくのです――。
ページをめくるたびに飛び込んでくる、雄大な海と空。そしてしなやかで力強い鳥たちの姿に、目を奪われます。
ピッピッピッピッ。
チュリン、チュリン。
オロロロ、オロロロ。
ザザー、ザザー。
本書の中でさまざまに表現される、鳥の声や波の音。
読んでいると、生命力に満ちた空気を感じ、まるで音が直接耳に響いてくるよう。ウトウが燃えるような夕日をバックに戻ってくるシーンの絵は迫力に満ちていて、鳥たちの声やはばたきの音が自分を囲むようなのです。
本書を読むと、自然界のものすべてが、分かちがたく結びついていることに気づきます。人間の生活のために、この自然が破壊されることがあってはならないことも、同時に思います。雄大な自然と素晴らしさに思いを馳せられる、静かな生命の力に満ちた1冊です。
(絵本ナビ編集部)
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