公園のベンチで、片目に何か丸いものをくっつけて本を広げるお姉さんがいます。
なんだろう、と子どもは気になりますよね。
「あれ、なあに?」と聞くと「見ちゃだめよ」というお母さんがいます。
「お姉さんに(直接)聞いてみたら?」と促すお父さんもいます。
そこで、はやたくんという男の子は質問します。
「それはなんですか?」って。
お姉さんの名前は、ゆうこさん。
ゆうこさんが答えてくれました。
「これはルーペ。これで ほんを よんでいるの。ルーペは いろんなものをおおきくみせてくれる どうぐよ。わたしは めが よく みえないの。でも この ルーペがあれば こんな ちいさな もじだって……」
はやたくんはルーペをのぞきこんで、本の文字に「でっかい」とびっくり。
ルーペを貸してもらったはやたくんが、ルーペを通してあちこちへ目を向けると、いろんなものが見えてきます……。
本書は実話をもとに “障がいってなんだろう”を子どもと一緒に考えられる絵本。
読み進めるうちに、ゆうこさんのように目が見えないから、道を的確に伝えられる場合もあるんだな、とか、車椅子に近寄ると危ないからって避けるより、手を差し出してくれる方が嬉しいんだなと、読者もわかってきます。
そして、はやたくんが、ゆうこさんに「それはなんですか?」って聞いてみてよかったなぁと思うのです。
“障がいとは”を身近に考える作品ですが、決してお説教っぽい本ではありません。
ゆうこさんにとっての「ルーペ」のように、この絵本はみなさんの周囲の小さな物事がでっかく見えるきっかけになって、もしかしたら日常でおもしろい発見に出会えるかもしれません。
巻末には、絵本づくりに関わった人たちからのメッセージが寄せられています。
みんな同じでもつまらないし、みんなちょっとずつ違うのがあたりまえ。
気になったら「それ、なあに?」「大丈夫?」と声をかけあえる社会は、障がいのある人にとっても、ない人にとっても、きっと風とおしのよい社会です。
多屋光孫さんが描く、太い線とあたたかい色合い、人物たちの表情は、じっくりながめたくなる味わい深さです。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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