タンポー、ティンポー(むかし、むかし)のブータンの民話。
小さな国のある村に住む、ヘレーじいさんという気のいいおじいさんの、夏の日のおはなしです。
ソバ畑を耕しているとヘレーじいさんの鍬に、何かがゴツンと当たりました。
切り株だと思って掘り起こすと、なんと切り株の下にきらきら光る、大きなトルコ石があったのです。
そりゃもう大きくて、ヘレーじいさんの顔と同じくらい。
驚いて惚れ惚れと石を眺めていたじいさんですが、ふとこんなことを思いつくのです。
「そうだ。こいつを いちばへ うりに いけば、おれさまは 大金もちに なれるぞ」
そうと決まれば、トルコ石を大事に両手で抱えて、さっそく市場へ向かいます。
ですが、気のいいヘレーじいさんは、ウマをつれた男に出会い、ウマと交換してしまうのです。
高価なトルコ石とウマでは、トルコ石に値打ちがあります。
男はしめしめと思いますが、一方へレーじいさんもご機嫌で、今度はせっかく手に入ったウマとヤクを交換し、おまけにヒツジと取り替えて……。
おやおや、ヘレーじいさんは、自ら値打ちの下がるものにどんどん取り替えていくようですが、一体どうなるのでしょうか。
あっと驚くどんでん返しもなく、日本の昔話「わらしべ長者」と逆のおはなしはリズミカルに進んでいきます。
ブータンは「幸せの国」と言われます。
それは物質的な豊かさや幸せではなく、人々が「自分のことを幸せだと思っているかどうか」が基準です。
なるほど、そう思って絵本を読むと、ユーモラスな中にブータンの民ならではの哲学が感じられるような気がします。
作者は肥田美代子さん。チベット・ブータン研究家の今枝由郎さんの協力を得て、子どもがよい本に出会えることを祈って作られました。
「かんぱい!」シリーズ(童心社)の挿絵などで活躍する小泉るみ子さんが、ブータンの人々を人情味豊かに描いています。
日本の昔話とは“似て非なる面白さ”を体感してくださいね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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