草木は枯れ、アオムシもチョウチョウもいなくなり、この地球に残っているのは多分ぼくだけ。人々は逃げて、月に行ってしまった。……ひとりぼっちだ。
街を歩いても誰にも会わない。一緒なのはカゲだけ。するとカゲはあっちへいけ!と指をさす。
「やばっ!」
そちらに走っていった途端、地面が爆発して穴があく。崩壊したビルが倒れてくる。ぼくはカゲにみちびかれながら、知らない生きものに出会い、波にさらわれそうになりながら、黒い島にたどり着く。やがて島を出た後も、いつまでも、どこまでも、危険と闇が襲ってくる。
「やばっ!」
なにもかもグニャグニャとけて、いよいよメルトダウン! いったいぼくはどこに向かっているのか。ここで生きていけるのだろうか。この世界でぼくは……。
トミー・ウンゲラー最期の絵本として残されたこの作品。「やばっ!」という言葉の響きの軽さとは裏腹に、全く軽くない絶望に満ちた光景がひたすらに続いていく。ここで見ているのは現実なのか夢なのか。あるいはこれから起きる未来なのか。それでもぼくはカゲの声を聞き、カゲと向きあい、感覚を研ぎすませ、「やばっ!」の響きとともに前を見る。
決して、優しくも親切でもない物語。それでも、この絵本のどこかに力強さや希望を感じとることもできるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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