漆黒の世界の中にたたずむ白いおおきなネコ。
その両手でひらかれたネコのおなかの中に煌めく内なる宇宙。表紙に彩られた金色の文字を読むと『ウラオモテヤマネコ』と書かれています。ここではないたぶんどこか遠くから突然届いた宛名のない手紙のように、不思議な空気をまとったミステリアスで美しい絵本は、いったいどのような絵本なのでしょう。
「ウラオモテヤマネコ」は何万年も長いことくらしていました。
ウラオモテヤマネコの仕事は、裏の世界と表の世界を旅することです。「まぁ、裏の世界からみれば 裏が表で表は裏なのだけれど」意味深なことをいつもいいます。
ある晴れた日、ウラオモテヤマネコは表の世界で、美しい瞳の少女に出会います。
裏の世界に興味をもったこの少女に心惹かれたウラオモテヤマネコは、「戻れなくてもかまわないならば 裏の世界へつれていってあげるよ」と少女を連れ出します。少女が裏の世界でみたいろいろな姿をした宇宙。ふたり寄り添ってすごす美しい裏の世界で、時間がゆっくりと流れていきます。ところが、あるとき少女は表の世界が恋しくなり、とうとうあることをウラオモテヤマネコに願うのですが・・・。
なんとも気になる絵本です。
ウラオモテヤマネコという架空の生き物の存在とその少女の関係、表と裏の世界、いろいろなキーワードがパズルのように紐解かれていく快感に、気づけば、自ずから先へ先へと絵本の世界へ足をふみいれているのです。
作者の井上奈奈さんがこの絵本を生み出すきっかけとなった出来事があります。現在では100頭前後にまで数を減らしている、幻のイリオモテヤマネコが発見されてから、2015年で50周年を迎えるという事実。常に、人間と環境の在り方について問いかける作品を生み出している井上奈奈さん。後ろ見返しには、イリオモテヤマネコからあなたに向けたお手紙が書かれています。絵本の中の空想の世界と現実の世界が少し重なる、ちょっと特別な絵本です。
大人だけではなく、子どもがそこから何を感じとり、この先の未来へとつなげていってくれるか、希望をもって手渡したい1冊です。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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