ある日、シロクマのところに手紙が届きます。
「いちご おとどけいたします。」
いちごってなんだっけ?
……ああっ、おもいだした。
あの かわいらしい 赤い実のことね。
シロクマは、いちごのことをうっとり心に思い浮かべました。
そして、ひとつぶ届いたいちご。
シロクマは、「いとしの ひとつぶちゃん」と語りかけ、見つめて、
夜はいちごのかおりに包まれて眠りました。
いちごをたからもののように側に置いて眠るシロクマの寝顔のなんて幸せそうなこと!
次の冬、またいちごが届きました。
今度は2つぶ。次の冬はもっとたくさん……。
年々数は増えていきました。
いつでも美しく、おいしいいちご。シロクマは毎年たくさんのいちごを食べました。
びっくりするほど上等で、あま〜いかおり、ハートのいちごにピンクのいちご、ケーキにパイ…。
けれども、シロクマ自身もあることに気づいていました。いつのまにか、シロクマの目に映るいちごは、もう以前のいちごではなくなっていたのです。
いちばん おいしかったのは? って聞かれたら……?
おはなしは、『あかり』(光村教育図書)など、たくさんの児童書や絵本を手がける人気絵本作家の林木林さん。絵は、「ルッキオとフリフリ」シリーズや『北極サーカス』(ともに講談社)など、夢のような風景と心に残る動物たちの表情で、人気の画家、庄野ナホコさん。『二番目の悪者』に続く、ふたりのタッグでの待望の第2弾です。
今作も、スパイスのきいた寓話物語を、庄野さんの絵が美しく幻想的に彩ります。シロクマの仕草や家のなか、鮮やかないちごとピンクの世界は見ごたえたっぷり。
誰もが覚えがある、贅沢な心の変化。
最初にあったはずのときめきと幸せは、なぜありあまると、色あせてしまうのでしょう。
この物語を読んで感じることは、人それぞれ違うかもしれません。
ただ、きっと読者はみんな、忘れかけていた何かを思い出してドキリとするはず。
ピンクの甘い可愛らしさと裏腹に、ピリッと胸に刺さる物語です。
すみずみまで美しい装丁の一冊。自分へのプレゼントに、大人の女性へのギフトにもおすすめです。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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