丘いっぱいに広がるモミの森で、風が強い日に傾いて、そのままとなりの木にからまってしまった木がありました。
大きく成長できなかったひょろひょろのモミの木は、クリスマスが近づき他の木が次々選ばれても、誰からも選ばれません。
とうとうイヴの日の夜遅く、最後のツリーがデパートで買われたときでさえ(それはひょろひょろの木がからまったとなりの木だったのですが……)「こっちはいらないですよね?」と店員さんに言われてひっこぬかれてしまいます。
誰のクリスマスツリーにもなれないまま、小さな木は捨てられてしまうのでしょうか……?
さあ、この後のいくつかの不思議な偶然が本書のみどころです。
イヴの夜にともされた火は、りっぱなツリーだけに聖夜の力をもたらしてくれるのではありません。
小さなひょろひょろのツリーでも、ともされたキャンドルの火は人々にやさしく届き、等しく皆を包みこみます。
橋の下で暮らす家のない人たち、通りすがりの人たちでさえも……。
注目のイラストレーター、エミリー・サットンが描く、クリスマスの町を行き交う人々の風景が素敵な大判絵本です。
誰からも見向きもされなかった小さなモミの木におとずれる、魔法のような一夜。
そして役割を終えたツリーが「こんなふうになるとはねえ……」と最後につぶやく場面をしみじみと味わってくださいね。
聖夜の奇跡を信じたくなるクリスマスの絵本。
キャンドルの火に、未来の幸せを祈りたいですね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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