富安陽子さんと早川純子さんと竜。
この組み合わせだけでもワクワクせずにはいられません。
一体どんなお話が待っているのでしょう、どんな竜の姿が見られるのでしょう。
物語は、竜のぼうやが生まれる美しい満月の夜から始まります。
雲の巣の中で温めていたたまごにひびが入り、やがて殻が割れると、中から小さな小さな竜の赤ちゃんが出てきました。
生まれたての竜のぼうやは、月にむかって「シャーッ」とほえます。
おかあさんは、自分の体のとぐろで眠るぼうやを優しく優しくなめてやります。
ああ、なんて小さなぼうや。
そして、なんて大きなおかあさんなのでしょう。
一つ朝が明けるごとに、どんどん成長していくぼうや。少しずつ空も飛べるようになります。
ところがある晩、目を覚ましたぼうやは不思議なものを見たのです。
それははるか遠くに明るく輝く街の灯りだったのですが・・・。
私達のいる地上からはるか遠く空の上で、ぼうやを育てる竜のおかあさん。
そのやわらかな文章のせいでしょうか、その雄大な絵のせいでしょうか。
竜と聞いて想像するよりも、ずっとずっとゆったりとして優しい世界が広がっているのに驚かされます。
心地よくその物語へと入っていけるのです。
ちびなぼうやの可愛らしさ、儚げな様子といったら!
それを包み込むおかあさんのどこまでも大きな愛情の力強さといったら!!
ぎろりとした目、立派なつの、鋭い牙と爪。その姿が画面からはみ出るほどの迫力で描かれているのに、同時にあたたかいものを感じさせてしまう早川さんの絵の力に脱帽してしまうのです。
読み終えた後、何とも言えない幸福感に涙が出そうになりました。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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