お父さんと手をつなぎ、家路を歩く赤い服の少女。
灰色に閉ざされた街の中で、少女の着ている赤だけがあざやかです。
ふと、道端に咲く花を見つけた少女は、その花を摘みます。
あちらこちら、だれにもふり返られることなく、都会の道端に咲く小さな花々を、少女は集めます。
お父さんに手を引かれて歩くうち、赤い少女と色とりどりの花々は、灰色の街の真ん中に横たわる小さなスズメに出会いました。
花を少し、スズメに分けてあげる少女。
突然夜が明けたかのように、灰色の街がぱっと、あざやかに色づきました。
少女は花を分けて歩きます。
だれに気づかれなくとも。
だれに感謝されなくとも。
少女がこっそりと花を配るうち、街はみるみる色を取り戻していって―
この作品に文字はありません。
文字の代わりに少女の心を描き出すのは、『色』です。
影の黒と日の当たる白、そのあいだの灰色。
モノトーンで描かれた街は、なんだかさびしく、冷たい印象です。
やがて、小さな出会いとささやかな行動によって、少女の心のうちと彼女の見る世界は、やわらかくあざやかなものへと、少しずつ変化していきます。
"色"がこんなにも豊かに人の感情を表現し、深く感動を呼び起こすものだという発見が、きっと新鮮な驚きをくれるはず。
少女とお父さんは、色彩あふれる我が家に帰りつきます。
しかし、花を配るために少し立ち寄っただけだとでもいうように、少女はふたたび家を出ていきました。
一輪だけ残った花と共に、ほほ笑んでいるようにも、憂いているようにも見える表情で歩く少女。
最後のページ、彼女はなにを思っているのか?
この絵本を飾る色彩のどこかに、その答えが描かれているかもしれません。
(堀井拓馬 小説家)
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