むかしむかし、あるところにひとりぼっちの娘がいました。
「役に立たない小石のようだ」
心ない村人に娘はコイシと呼ばれていました。
ある日、深い山奥へと足を踏みいれたコイシは泉を見つけます。
透明な水面を思わずのぞきこむと、
突然、鮮やかな青のウロコを身にまとったりゅうが現れました。
「なんて きれいなりゅう!」
コイシは、りゅうの鼻先をそっとなでました。
それからというものコイシは、毎日毎日山の泉へ通いました。
「りゅう、りゅう」
コイシが呼ぶとりゅうは姿をあらわすようになり、
ふたりの互いの心は通じ合うようになりました。
ところが、ふたりの幸せのひと時はすぐに終焉を迎えます。
コイシの秘密を知った村人が、りゅうのうろこで金儲けしようと企んでいたのです。
青いりゅうを必死で守ろうとするコイシ。
コイシのために自らの犠牲を省みないりゅう。
ふたりに一体何が起きたのでしょう。そしてふたりの運命は・・・。
表紙の鮮やかな本紫の背景に、なんとも艶やかな桜色をした見事なりゅうと、その横にそっと寄り添うけなげなコイシの穏やかな表情がとても印象的な絵本。
『いるのいないの』「あずきとぎ』(岩崎書店)、『おばけにょうぼう』(イースト・プレス)で圧倒的な画力とその独特な深みのある絵で読者を魅了した町田尚子さん。本作は、作絵を担当されて2冊目の絵本となります。吸い込まれるような透明感のある深いコイシの瞳、ハッと度肝を抜かれる迫力のあるりゅうの美しさはもちろん、その儚げでありながらも、芯のある優しいお話に心を打たれます。
桜色のりゅうとコイシは、今どこにいるのでしょうか。
いつまでも心に残ります。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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