学校帰り、ぼくが橋の上で川の水を見ていると、いつのまにかおじさんが隣に立っていた。何十年も脱いだことのなさそうな雪柄のセーターを着ているそのおじさんは、ぼくに聞く。
「川が好き?」
別に好きなわけでもないし、ただここにいるだけ。そう言いながらも、本当は、今ここから川へとびこんだらどうなるだろうって考えていた。そしたら……。その時、おじさんはぼくの方を見て、不思議なことを教えてくれたんだ。
「耳をぎゅうっとふさいでごらん」
すると、きみだけの湖が見えると言う。その水は暗い地底の水路をとおって、きみのもとへやってくる。そしてその水がきみのからだをめぐるんだ、と。
多くの反響を呼んだ絵本『くまとやまねこ』から14年。湯本香樹実さんと酒井駒子さんのコンビによって、ふたたび誕生した「いのちの物語」。男の子が体験したショッキングな出来事。そこにうずくまって前に進めなくなっていた彼を救ったのは、どんな光景だったのか。自分をとりまく世界と、自分の内側に存在する世界。そのつながりを、優しくシンプルだけれど、とても具体的な言葉、そして黒を基調としながらも深みを感じる絵によって表現し、読者の心をしっかりと力強く包みこんでくれるのです。
今の自分に、そしてかつての自分にも。さらに世界中の子どもたちの心の中に。この湖の存在が伝わっていきますように。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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