ページをめくるたびに、干し柿の甘い香りと晩秋の澄んだ空気がたちのぼってくるようでした。オレンジ色に輝く柿がずらりと軒先に並ぶ光景、農家の方の節くれた手、やがて白い粉を吹く柿の様子など、一枚一枚の写真がまるで一篇の詩のようです。作者が4年以上もかけて追い続けたというだけあり、そこには圧倒的な時間の重みと温もりが写し出されていました。
私自身、幼い頃に祖父母の家で見たこの風景に、懐かしく温かい記憶がよみがえりました。しかし、効率や便利さが優先される現代の暮らしの中で、我が子にこの手間ひまかけた豊かな食文化を実体験として味あわせてあげるのは、残念ながら非常に難しいのが現実です。
だからこそ、この絵本は単なる記録以上の大きな価値を持つのだと感じます。体験できない世界を想像力で補い、日本の食文化の奥深さと、自然の恵みと共に生きる人々の営みを次世代に力強く伝えてくれます。「昔の人はすごいね」と呟いた子どもの言葉が印象的でした。
食べ物が私たちの口に届くまでの長い時間と多くの人の手を、美しい写真を通して実感し、感謝の気持ちを育むことができる。親子で大切なことについて深く語り合うきっかけをくれる、一冊です。