りんごの木に巣穴を構えた、かあさんふくろう。
春にたまごを産み、えさをとり、とうさんふくろうと共に、ひな達を一人前に育て巣立たせます。
この営みを繰り返し、また春に新しい命が生まれてくる、その一年間の物語です。
「かあさんふくろうは、すあなでたまごをあたためていた。28にちのあいだ、まいにち ずっと。」
こんな味のある言い回しで、私たち読者を物語にいざなってくれます。
紺とこげ茶の2色の、渋くて落ち着いた印象の木版画が特徴的ですが、版画でありながら、ふくろうの生態が実にリアルに描かれています。
ひなたちの体が濡れて冷たい様子、かあさんふくろうがえものを捕らえる様子、天敵のアライグマやワシミミズクの危険から逃れる様子・・・。
ひとつひとつの描写が丁寧で生々しく、そこにふくろうの存在を確かに感じられるのです。
かこさとしさんがあとがきで、「私が特にすきな本のひとつ」と述べられています。
「科学的に、しかも美しさと詩情をともなった物語としてつづっている」という言葉が、この作品の魅力をよく表しています。
『おやすみなさい おつきさま』『ぼくにげちゃうよ』で知られるクレメント・ハードと、その妻イーディス・サッチャー・ハードの夫婦による作品。
一語一語選び抜かれた翻訳も素敵で、「ていねいに描く」という表現がとてもしっくりきます。
ひとつひとつの場面をゆっくり味わいながら、豊かな時間を過ごすことができる、そんな絵本。
またひとつ、本棚に加えたい作品が増えました。
(金柿秀幸 絵本ナビ事務局長)
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