遠くに海の見える見晴らしのいい場所にあり、中に入れば壁一面の本。中心には大きならせん階段があり、店主はねこ。なんて素敵な本屋なのでしょう。
最後の小さなお客さまをお見送りしたあと、今日は早めに店じまい。ねこは散歩に出かけるのです。ところが、窓を一か所閉め忘れてしまったから大変。強く風がふきこんだ時、パラパラとめくれた棚の絵本から、物語の人たちが窓の外へ飛ばされてしまったのです。
そうとは知らずに、野原でねころび、のんびり毛づくろいをしていたねこ。そこへ小さな声が聞こえてきます。
「ここから ぼくを おろしてくださいな」
木の枝にぶらさがっていたのは、ピノキオ! さらに川の近くにいたのは……。
シンデレラにラプンツェル、3びきのこぶたに白雪姫。大好きな物語の世界の人たちが、本屋のねこと一緒に夕暮れのまちを歩き回る。偶然とはいえ、内緒とはいえ。これはなかなかの大冒険。魔女やおおかみと手を取り合うのもちょっとドキドキ。でも、のんびりした性格のねこの背中は思ったよりも広く、なんだかいい雰囲気。
本の世界に触れる楽しさを、こんな形で体験させてくれるなんて。子どもたちの姿を力強く描き続ける絵本作家、石川えりこさんの新境地。ペローやアンデルセンの物語を読んだことがある人にも、まだ知らない人にも。力を抜いて楽しめる、「すきまの時間」の素敵なお話です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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