雨の日。ガタン ゴトン ガタン、プヮー パー。
電車の通るトンネルの中で、黄色いカッパを着てたたずんでいるのは男の子。
じっと目をつぶった後、そっと目をあけてみると、電車の通り過ぎる音にまぎれてラッパの音が聞こえてきた!
サーカスの始まりの合図です。
ピエロがラッパを吹き鳴らし、踊り子たちがくるくるお皿をまわし。
いつの間にか、トンネルの向こう側は海。大きな船まで見えてきた!
「おーい」
どこからかやってきたのは・・・?
雨の日のトンネルの中から繰り広げられる、華やかで壮大な世界。
どこか懐かしくて、切ない気持ちでもある「ぼく」だけの世界。
ここにくれば始まってくれる、小さなお話たち。
こんな風に物語の入り口は子どもたちのすぐそばにあった、のかもしれません。
子どもの頃自分も行ったことがある、ような気もするのです。
「ぼく」だけの世界へ迎えにきてくれるのは、からりと晴れたお天気と、おかあさん。
これは夢?それとも本当?・・・きっとその間に存在しているお話なのです。
こんな世界を絵本の中に描きだしてしまう、作者の表現力に嫉妬せずにはいられません。
子どもたちにはじっくり静かに味わって、そして、また自由に小さなお話の世界と行き来してほしいな。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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