ぼく(ゆうすけ)が2年生のときにひっこしてきた島の小学校には、「やっくん」と呼ばれている自閉症の少年がいました。やっくんは、大きな声でおかしなひとりごとを言ったり、授業中急に運動場へ行ってしまったりします。
学校では遊ぶときも勉強するときもみんな一緒。先生も生徒も、やっくんが騒いだとき、いつも落ち着くまで待って、してはいけないことを優しく教えていました。
はじめは戸惑っていたぼくも、周囲の接し方を見るうちにやっくんを理解し、しだいに友だちになっていきます。
小学校卒業の時、そろって卒業生になったみんなの姿に、担任だったうちだ先生は涙を流します。やっくんはとびだして先生の手をにぎり、こう言いました。「うちだ はなこ先生 はい、おしまい。 うちだ はなこ先生 はい、おしまい。」
大人になり、別々の仕事についても、ふたりの関係は変わりませんでした。
ぼくが仕事で泣いて外に飛び出したとき、いつのまにか後ろに立っていたのは、やっくん。
「おおた ゆうすけくん はい、おしまい。 おおた ゆうすけくん はい、おしまい。」
ことばで はなしが できないのに、心が わかりあえる。
やっくんは、ぼくの ふしぎな ともだちだ。
この絵本の「ぼく」と「やっくん」にはモデルがいます。絵本作家たじまゆきひこさんが、淡路島の自閉症の青年とその同級生に取材を重ね4年の歳月をかけて絵本にしました。「じごくのそうべえ」シリーズを始め、数々の絵本を作ってきたたじまさんが描く、ふたりの少年の友情の物語。
自閉症のやっくんと「ぼく」だけの話ではない、普遍的な人間の心の交流があります。障がいの有無をこえ、「共に育ち、共に生きる」ことを描いた絵本。だからこそ、これほど強く心を打つのだと思います。
第20回、日本絵本賞大賞受賞作品です。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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