「ペムペルという子はほんとうにいい子だったのにかあいそうなことをした。」
少年に向かってそう話しかけたのは、博物館のガラスの戸棚にいる蜂雀の剥製。
「妹のネリという子もほんとうにいい子だったのにかあいそうだなあ。」
黙りこんでしまった蜂雀が、ようやく話し出したのは、二人だけで楽しく暮らしていた兄妹が育てていたトマトのこと。
真っ赤な大きな実がなったトマトに混ざって、1本だけ黄いろく光った実がなったのだ。
「あれは黄金だよ。黄金だからあんなに光るんだ。」
ある日、そんな二人のところに何ともいえない「いい音」が聞こえてくる。
切れ切れになって聞こえるその音を聞きに行こうと、夢中になって駆け出していった二人がその先で見たものとは・・・。
何とも愛しく、そして切ない気持ちになる兄妹の物語「黄いろのトマト」。
賢治の童話の中でも印象的なこの作品を、どこまでも美しく幻想的に、そして力強く描き出したのはスロバキアに在住されている降矢ななさん。
どこか懐かしいような、でも遠い国のような場所で暮らすペムペルとネリ。
物語の象徴でもある二人が育てたトマトは、赤い実も黄いろの実も堂々として本当に立派。
一変して、二人が駆け出していった先で見たサーカスの行列や大きな四本脚の生き物が通る場面は鮮やかできらびやか。
そして二人の無垢な表情といったら・・・。
どんどん変化していく色彩で描かれたそれぞれの場面。どのページでも息を飲んでしまうほど美しく・・・。
ペムペルとネリの感情や息づかいまで伝わってきて、まるで1本の映画を見終わったような余韻が残るのです。
降矢ななさんの渾身の思いがこもったこの作品。
絵本を読んだ子どもたちがどんな感動を心に残すのか、そして大人はどんな物語として読み解いていくのか。
とても興味深く、大切にしていきたい1冊になりました。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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