これは、ある王国のお話。むかし話です。
最愛の娘ルチアに、ふさわしい婿を、と願った王さまとお妃さまが、賢者アンジェロに手紙を書きました。
賢者アンジェロからの返事はこういうものでした。
「世界でいちばんすばらしいものを見せることができる若者をおさがしください」
世界でいちばんすばらしいものとはなんでしょう。
王女ルチアは大切にされるあまり、宮殿の外に出たことがありませんでしたが、王さまとお妃さまが婿さがしに夢中になる間、街に出てよいことになります。
宮殿を飛び出したルチアは、運河のへりに腰かけて子猫と遊んでいる青年サルヴァトーレと出会いました。
街を案内してほしいというルチアに、サルヴァトーレは喜んで承知し、二人は街を歩き回ることになります。
宮殿では次々やってくる求婚者に、王さまとお妃さまが「世界でいちばんすばらしいもの」と思われるものを見せられますが、二人ともなかなかそれが「世界でいちばんすばらしいもの」だと納得することができません。
一方ルチアとサルヴァトーレは街を一緒に歩き、すばらしいものを見て過ごします。しかしルチアが王女であることを知ってショックを受けたサルヴァトーレは……?
身分違いを知ったサルヴァトーレはどうしたのでしょうか。ルチアとサルヴァトーレの運命は?
「世界でいちばんすばらしいもの」は見つかるのでしょうか。
繊細な装飾が施されたアンジェラ・バレットの絵は優美で、すべてのページの絵が見ごたえがあります。
たとえば最初のすばらしいもの……「100本のバラと青い尾をもつラブバード」では、煙るようなスモーキーピンクのバラとブルーのグラデーションの長い尾をもつ愛らしい鳥のたたずまいを見せてくれます。
白い馬、ピラミッド、神話に登場するけもの、凍った空のかけら、手品をする犬、水槽の人魚……。
幻想的なものがたくさん登場し、読者は「世界でいちばんすばらしいものって一体なんだろう」と思いながら、読み進めていきます。
じつは賢者アンジェロの孫息子だったサルヴァトーレ。サルヴァトーレにアンジェロの助言があるのでしょうか、それともサルヴァトーレ自身が答えを見つけ出すのでしょうか。
賢者アンジェロが住む緑の島で、物語は結末を迎えます。
この世界は広いけれど、「世界でいちばんすばらしいもの」はひとつだけ。
それは大切な存在がある人すべてにとって納得の答えにちがいありません。
おとぎ話のようでいて哲学的、細部まで描き込まれた絵が、この絵本をさらに特別にしています。
大人も子どもも、時にはこんな美しい絵本を開くひとときを味わってください。
贈り物にしたい絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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