あべ弘士さんの世界
同じ母の乳を飲み、兄弟として育ったアイヌの少年と仔グマのキムルン。その絆は、友情という言葉では表しきれないほど、魂の深い場所で結ばれていました。
しかし、彼らの世界では、クマは最高の神「キムンカムイ」。愛しい兄弟は、やがて天上の神々の世界へ送り返さねばならない、尊い存在でもありました。
慈しみ育てた神を、自らの手で天へ還す儀式「イオマンテ」。成長した少年が、愛する兄弟に矢を放たねばならない宿命の重さに、胸が締め付けられます。これは、自然への畏敬と共に生きたアイヌ民族の、壮絶で美しい祈りの物語です。
旭川で生まれ育ったあべ弘士氏だからこそ描ける、北の大地の魂。単なる伝説の紹介ではなく、その地に生きる者の視点から、命の循環という厳しくも崇高な理(ことわり)を、静かに、そして真摯に伝えてくれる一冊です。
投稿日:2025/10/06