主人公のおばあさんは、「お酢の壷」によく似たせまい塔のような家で、猫のモルトとしあわせに暮らしています。そのようすは貧しいながらもていねいでとても魅力的。モルトでなくてもこのままずっとこうして暮らしていたいなと思えます。ところが、小さな魚を助けてあげたことから物語は一変。実は湖の王様だったその魚は、お礼に「あなたののぞみを、すべてかなえてあげましょう」と言うのです。最初は遠慮がちに「あったかい夕はんを、めぐんではくださいませんでしょうか」とお願いしたおばあさんでしたが、次第にエスカレートしていって……。
あっという間にほしいものも態度もどんどん大きくなっていくおばあさん。おまけに願いを聞いてもらっても、満足するどころか不満が募るばかり。とどまることをしらない人間の欲望をみせつけられるようです。おばあさんの変わり果てた様子に「あれはきのう……、つい、きのうのことです。」となげく魚の言葉に、私たちもはっとさせられます。
作者は『ねずみ女房』や『人形の家』など、幅広い世代にうったえる物語を残したイギリス人作家ルーマー・ゴッデン。ゴッデン家に4世代にわたって語り継がれてきた昔話に、あらたに猫のモルトを登場させてまとめたというこちらの物語も、やはり子どもから大人まで幅広い世代の心に響きます。たっぷり入ったなかがわちひろさんの挿絵も楽しく、まだ読み物にあまり慣れていない子でも、どんどん読めてしまうことでしょう。
なんだかこの話知ってる、どこかで聞いたことあるような?と思った方…、そう、こちらはロシアの昔話『金の魚』やグリム童話『猟師とおかみさん』とも似たお話。けれど結末はちょっと違うようですよ。ハラハラドキドキした後にはちょっとほっとするような優しくあたたかなエンディングをどうぞお楽しみ下さい。
(三木文 絵本ナビライター)
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