おすしやさんに子どもたちがやってきます。
目の前に並ぶのは、美しい魚や貝たち。
「さあて、どれをおすしにしようか。」
キンメダイ、アナゴ、イカの順に、寿司職人がおすしにしてくれます。
まずはキンメダイの体をじっくり観察していきますよ。
せびれ、むなびれ、はらびれ、しりびれ、おびれ、角度を変えると金色に光る目、前から下からのぞいたり、口を開いて中を見てみたり。うろこをはがすと、子どもたちにうろこが飛んでいきます。赤くてとってもきれいなうろこ。水に入れると、ピンク色になってキラキラしています。頭を切り落とすと胃ぶくろが出てきました。胃ぶくろにはいったい何が入っているのでしょう? そのあと内臓を取って中をきれいに洗ったら三枚におろし、皮ももったいないのであぶってしっかりいただきます。
次はアナゴ。
顔を下から見たり、上から見たり、前から見たり。キバのように見えたのは鼻の穴で‥‥‥。お顔をじっと見ているとなんだか可愛らしく思えてきます。体を開いていくとホースみたいな腸が出てきました。おっ! 腸になにか入っています。ぐうっと押していくとおしりのあなから出てきたのはウンチ!「くさいのかな〜!?」「そんなににおわないな。」
子どもたちの目の前でゆっくりと丁寧にさばかれ、どんどん姿が変わっていく魚たち。子どもたちは見たり、触ったり、においを嗅いだりしながら五感をいっぱいに使って、観察していきます。魚の体の細部にわたるたくさんの美しい写真から伝わるのは、大人でもなかなかお目にかかれないような魚の生態。「生きもの」としての営みです。胃ぶくろに食べたものが入っていたり、腸にウンチが残っていたりと、それはついさっきまで魚たちが生きていたという確かな証拠。その命の証拠を目のあたりにすると、一瞬とても食べられないような気持ちになりそうになるものの、いつの間にかすっかりおいしそうな姿に変わっていくところが不思議でなりません。
はじめから終わりまで圧倒されるのは、子どもたちの笑顔と驚きの生き生きとした表情。職人さんの説明のひとつひとつをじっくり聞いて、目をキラキラさせながら魚の細部を見つめる子どもたち。そこにはなんの躊躇も感じられません。本物を伝えるとき、受け取るときというのは、こんなにまっすぐに届くものなのだな、と心の奥底から不思議な感動が湧いてきます。
著者は、寿司職人のおかだだいすけさん。「使う食材や道具などは、可能な限り生産地に足を運び、五感で確かめる。自分で作れるものは作る、獲れるものは獲りに行く」ということにこだわりを持ち、幼稚園や小学校で魚をさばき料理に仕上げるまでを子供たちに見せる会や高校での寿司のワークショップなど様々な活動を行っているのだそう。絵本の冒頭にある、おかださんが釣りをしている写真からもそのこだわりの精神が感じられます。
「生きものは 食べものになって、きみたちの からだの いちぶになる。」
「わたしたちは たくさんの いのちで できているんだ。」
第68回青少年読書感想文全国コンクール課題図書(小学校低学年の部)に選ばれ、さらに、第27回日本絵本賞、第27回産経児童文化賞 JR賞と次々に受賞が続いている話題作。この一冊と出会うことで、子どもも大人も、ふだん何気なく食べている「食べもの」への見方が変わったり、自分の体の一部になることが実感できるのではないでしょうか。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
続きを読む