しょきしょきしょき。
夏休みは、田舎のおじいちゃんの家で過ごす。
おじいちゃんの家のまわりはなんにもない。
ただ、うっそうと茂る緑。山。木や草。石や虫。
しんとしている。
静かだけど、耳の奥で響く
やむことのない虫の鳴き声、風の音、川の音・・・。
魚がたくさんいそうな
とても深そうな川がある。
しょきしょきしょきしょき。へんな音。気のせい?
夜、おじいちゃんに川のことをきくと
あぶないからいっちゃだめだと言う。
しょきしょきしょきと聞こえるへんな音は
あずきとぎの仕業だって言う。
そんなの迷信。
おばけなんかいない。きをつけていればへいきな・・・はず。
・・・しょきしょきしょき。しょきしょきしょきしょき。
京極夏彦さんが挑んだ「京極夏彦の妖怪えほん」シリーズ5巻の1冊『あずきとぎ』。
本物の「妖怪」とは何かを問う渾身のシリーズです。
妖怪とは、本来、日本の風土と文化、その土地で暮らす人々の喜怒哀楽や心が生みだしたものなのだと、シリーズ監修者である東雅夫さんは言います。「ちょっとこわい」「なにかいるみたい」薄暗い森や川の影の揺らぎに、古い納戸の暗闇に、何かの気配を感じる。一人ぼっちになると、突如おそうあの感覚。「ゾワッ」「ブルッ」とする記憶をこの絵本シリーズで体験することができます。
シンプルにそぎ落とされた京極夏彦さんの言葉から生み出された怖ろしくも美しい絵本の世界。
町田尚子さんの息をのむほど神秘的で妖しい絵は、一瞬にしてわたしたちを男の子がいる場所へ、男の子の肌感覚を身に纏ったような不思議な世界へと誘います。それは、恐怖よりも好奇心が勝る子どもや大人にはたまらない入口なのかもしれません。
・・・男の子に何が起きたのか、しる人は誰もいません。
白い犬と黒い蜻蛉だけが知っている。
本当に怖いですよ。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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