その日はクリスマス・イヴ。
煙突を通って暖炉に現れた、白ひげの太ったおじいさん。
もちろん彼は、サンタクロース!
背中におぶった袋のなかには、あふれんばかりのプレゼント。
暖炉のそばの靴下へ、プレゼントをつめ姿を消す。
夜空をかけるトナカイと、彼らの引くそりは次の街へ─
クリスマス・イヴと聞けばだれしもが描くそうした風景は、おおよそ200年前に発表されたとある一編の詩がもとになっています。
その詩が1823年のクリスマスイヴのさらに前夜、新聞に掲載されると、たちまち評判となり世界中に広まって、誰しもが知る現在のサンタクロースとクリスマスの姿を確立しました。
そんな古典的名詩をもとに、お手本のようなクリスマスを描いた本作。
にじむ暖炉の灯り、ふかふかのおおきな赤いベッド、緑色のカーテン、にぎやかに飾りつけられた部屋─
そうしたクリスマスカラーで彩られたページと、かたや耳にしんと響いてきそうなほどの静かな夜の雪景色の対比がとてもあざやか!
それが絵のふわふわとやわらかなタッチと相まって、それぞれのページから皮膚に染み入るようなリアリティをもって冬の温度が伝わってきます。
だれもがイメージするクリスマスそのままの光景に、かつて抱いたクリスマスイヴのなつかしいわくわくが、胸によみがえることまちがいなしです。
本作の文中ではカットされているのですが、原作の詩に登場する「ネズミ」たちもその姿はしっかりと描かれていて、やわらかな画風で描かれた彼らの愛らしいことといったらありません。
サンタクロースの生き生きとした姿もさることながら、ネズミたちをはじめとした動物のかわいらしさも楽しい一冊です。
ところで、原作者であるクレメント・クラーク・ムーアさんに詩のインスピレーションを与えたのは、自分のそりの鈴の音だそうですよ。
ふと鳴った鈴の音のひとつから、世界中で愛されることになるクリスマスの光景が生まれたなんて、なんともロマンチックですね。
(堀井拓馬 小説家)
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