「おおきな おおきな 木があるといいな。
ねえ おかあさん」
かおるは窓から顔を出して言います。
「おや、まあ、どうしてなの」
お母さんに聞かれて、かおるは話しだします。
彼が考えたのは、こんな素敵な木なのです。
それは手をまわしたって抱えられないような太い木で、はしごをかけて上へと登っていきます。木の幹にぽっかり空いた洞穴の中にもはしご。せっせと登っていくと、いきなり可愛い部屋の中へ! そこは枝が三つに分かれたところに建てたかおるの小屋。テーブルと椅子、そして小さな台所まであるのです。ここでかおるはホットケーキを焼きます。
さらに登っていくと、見晴台。そこからは遠くの山が見えます。風がさっと吹いて髪の毛をそよがせます。少し揺れるけど、かおるは平気。
「わーい」
素敵な気分になって思わず声をあげます。さらにかおるの想像は続きます。夏になったら、大きな木の上の部屋はさぞ涼しいことでしょう。秋になれば…冬になれば…。
佐藤さとる・村上勉コンビによるこの傑作絵本が誕生したのは、今から50年近くも前のこと。だけど「かおるの夢」は全くもって色褪せることがありません。人はどうしてこんなにも「おおきな木」に惹かれるのでしょう。木の幹の部分から丁寧にはじまる説明と共に縦開きとなり、上へ上へと読み進めていく感覚はまるで一緒に木に登っている様で……少し長めの文章も気になりません。そして大人にとっても、子どもの頃に受けた衝撃がそのまま蘇ってくる「永遠の憧れの絵本」として存在し続けているのです。
今年もまた。
夏がくれば、あの「かおるの小屋」を思い出して、うっとりしてしまいます。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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