『たんじょう』―――小宮輝之 上野動物園園長
飼育係の仕事をしていて一番うれしいことは動物の誕生です。
わたしは上野動物園でゴリラの出産に立ち会ったことがあります。お母さんのモモコが無事に出産し、あかちゃんを
ちゃんと扱えるかどうか、心配しながら見守りました。モモコはあかちゃんを大事に抱え、体についているよごれやまくをきれいになめとったのです。
モモコは飼育係の今西さんの目の前で出産したので、あかちゃんが生きているのをすぐに確認でき、ビデオであかちゃんの様子も記録におさめることができました。
多摩動物公園でゾウの出産にも立ち会うことができました。アフリカゾウのお母さんアイは、はじめてのお産でオスのあかちゃんを産みました。アイはあかちゃんをどうしたらよいかわからなくて、足でけとばしたり、牙でおしたりして、わたしたちをハラハラさせました。飼育係の佐藤さんがとびらを開けて、ちょくせつアイに声をかけました。すると、どうでしょう。アイは急にあかちゃんにやさしく接するようになりました。
ゴリラもゾウも野生では群れでくらしています。なかまの出産を見ることもありますし、出産経験のあるメスたちに助けられ教えられて子を産み、子育てをします。信頼関係にある飼育係は、動物園の動物たちにとっては、心をゆるせる大事ななかまでもあるのです。
一人のあかちゃんが生まれることはわたしたち人間にとっても、大切ななかまの誕生ではないでしょうか。
(絵本の巻末に記載されている上野動物園園長小宮輝之さんのコメントより)
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