ラチは世界でいちばんの弱虫です。なんたって、犬をみると逃げ出すし、隣の暗い部屋にも怖くて入れません。これでは「飛行士」になりたい夢だって、かないそうにありません。友だちさえ、怖いのです。
泣いてばかりいたラチのところに、ある日小さな赤いライオンがやってきました。彼は可愛らしい風貌とは裏腹に、とっても強いのです。そして言うのです。
「君も強くなりたいなら、ぼくが強くしてやるよ」
それは特別なことではありません。体を動かし、外へ出て、前に一歩だけ踏み出す勇気を持つことです。ポケットにライオンがいれば、ラチの心は不思議と少しずつ強くなるのです。そしてすっかり自信がついてきた頃、ライオンは手紙を残して……。
1960年代にハンガリーからやって来たこの愛らしい絵本は、日本の子どもたちと大人の心をすっかり掴み、今でも変わらず愛され続けています。それは、ラチの心の中にいる弱虫が、どんな子どもの心の中にも多かれ少なかれ住んでいる共通した「気持ち」であるからなのでしょう。それこそ些細な悩みに見えたとしても、本人と家族にとっては切実な思いがあるのです。
「ぼくには、ライオンがいる」
「我が子にはライオンがいる」
そのことが、図らずも多くの親子を勇気づけてきたのかもしれません。弱虫だっていう子にも、そうでない子にも。一度は読んでみてもらいたい、魅力的な絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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