わたしは 樹だ
もう、何百年も 何千年も、ここに 立っている。
屋久島を舞台に、何千年もそこに立ち続けている樹がみずからの命を語ってくれます。
小さなタネだったその樹は、固い岩の上に根をのばし、わずかな土にくらいつき、強く大きな樹になっていく。
「生きる! 生きる!生きる!」
彼はどこにもいけないけれど、とまってはいない。うごきつづけ、うたいつづけている。
その圧倒的な命の存在感を間のあたりにすると、何かが揺さぶられるのを感じます。
だけどこの絵本が教えてくれているのは、この1本の樹の命が、実は光と水、動物や植物、目にも見えないほどの小さな菌、そして命が絶えていった倒木など、全てとつながりあっているということ。そしてまた彼自身も次の命へとつながっていく。世界は全てつながりあって生きている、ということなのです。
こうした事実は、読む者の心に優しく染み入ります。
全体、つながり、バランスなどの意味を含む「ホリスティック」をテーマにしたこの絵本。
樹だけではなく、読んでいる自分自身もまた、あらゆるものとつながり合い、支えあいながら、いまここにあるということについて気づかせてくれます。
今、まさに自分の道を進もうとしている子どもたち。
自分の道に迷いが生じている大人。
どんな人の背中もそっと押してくれる、そんな絵本なのだと思います。
松田素子さんの力強い言葉と、それに呼応するかのようにダイナミックに表現されたnakabanさんの絵が、いつまでも心に残ります。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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