ある日、崖下にうずくまっているニホンカモシカの赤ちゃんを見つけた、カネオさんとレイコさん夫婦。まだへその緒がついていて生まれたばかりのようです。「メェ」というほそい声に、カネオさんはとっさに上着でくるんで抱き上げました。村中を回りレイコさんが哺乳瓶を探してきて、カネオさんがミルクを飲ませてみると、ぎこちなく飲みます。村人たちも見守ります。
保護されたニホンカモシカは「フク」と名付けられ、夫婦と暮らすことになりました。ただし期限は一年。ニホンカモシカは国の天然記念物なので、ひとり立ちの時が来たら山へ返すことを、カネオさんは役場と約束していたのです。足のケガも日ごとによくなり、フクは夫婦に甘えたり、元気に遊び回ったりするようになっていきます。
月日はあっという間に過ぎ、大きくなったフクを山へ戻すことになりました。カネオさんはフクがかわいい気持ちを押し殺し、夜、山へそっと置いていくのですが……?
岐阜県でニホンカモシカが保護された実話から、生まれたおはなし絵本。巻末で実話の内容が明かされていますが、まさに絵本と同じ。カネオさんたちの愛情や葛藤とともに、フクもまたカネオさんたちを心から慕う様子が絵本で描かれます。
さらに胸を打たれるのは集落の人々がフクを見守り続けたことです。みんなフクに「おかえり」と言いたい。けれど言えない……。そんなせつない交流が描かれます。鈴木びんこさんがぬくもりのあるタッチで描く、甘えるフク、やんちゃなフク、カネオさんを信じつづける無垢な瞳のフクが印象的です。
何度山へ連れていっても戻ってくるフクは、最後にどうなったのでしょうか? それはぜひ作品を読んでみてくださいね。命の出会いと別れ。野生動物との交流を考えさせられる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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山の集落に暮らすカネオさんとレイコさんの夫婦は、ある日、崖の下でうずくまっていた、生まれたばかりのニホンカモシカの赤ちゃんを保護しました。そのままでは自然の中で生きていけない状態だったので、一歳まで育てて山へ帰すことになりました。
ミルクをあげ、山の草を食べさせ、いっしょうけんめい世話をしたカネオさんとレイコさん。フクと名付けられた赤ちゃんは二人に慣れ、集落の人にもかわいがられてすくすくと育ちました。でも、ついに別れの日がやってきます――。
命のぬくもりと別れを描き、野生動物と人との関わり方を問いかける絵本。岐阜県で実際にあったお話から生まれました。
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