さかなが水の外に出て、学校に通うとしたら……? 今注目の絵本作家、しおたにまみこさんが繊細なユーモアを込めて描く、小学生のさかなくんのおはなしです。
さかなくんが学校に通うには、ゴムのズボンをはいて、水が入ったガラスのヘルメットをかぶり、ひれにはクリームを塗って……と大仕事。ズボンはぴちぴちだし、ヘルメットは重くて大変です。けれども、さかなくんは、歩くとき靴がきゅっきゅっと鳴ったり、学校で過ごす時間が好きなのです。ただ、1つ嫌いなのが体育で、さかなくんはみんなのように走ろうとしますが、リレーで転んでしまって……。
『たまごのはなし』(ブロンズ新社)で第28回ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB2021)金牌、第27回日本絵本賞大賞を受賞したしおたにまみこさん。さかなくんがどんな部屋に住み、どんなふうに身支度して出かけるのか……。暮らしを描き込むリアルさが独特で、子ども心をくすぐります。「さかなが走るなんて!?」と思うけれど、転んでヘルメットが地面に「ごーん」とぶつかる描写もまたリアル。そして足びれが「ぽん」と腫れてしまい、おうちに帰って「むっすり」する……言葉の響きもじんわり魅力的です。
私たちと似ていて、だけど違う、さかなくんの世界。読み終えたら、さかなくんの淡々として「むっすり」する姿に、ふふっとおかしくなったり、友だちの友情に勇気づけられたり。なんだか心のやわらかいところを、ぷくぷくと水の泡でくすぐられるような、いい気持ちになる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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