サアサ、お立ちあい。今日はたぬきの嫁いりだ。嫁ぎ先はへき地もへき地、大都会のどまん中って言うんだから驚きだ。
「みなさん、わすれものはありませんか?」
ふたりのおじさんが案内人となって、たぬきの花よめ「あさぎり姉さん」一族が人間に化け、電車に乗って都会へと向かいます。都会は人がたくさん、まるでお祭りみたい。電車が行きかい、ひっきりなしに車が走っていて、なんて不便なところなんでしょう。おまけに夜なのにこんなに明るくて、誰もおかしいと思わないのでしょうか。
「姉さん、どうしてこんなところにおよめに行くの?」
本当に好きになれば、どこだって、なにがあったって大丈夫。そう言って、あさぎり姉さんは桜満開の夜空の下、へき地にあるたぬき村でめでたく夫婦となるのです。それはそれは幸せそうで……。
山奥で何不自由なく暮らしているたぬきが、嫁入りのために都会へやってくる。エレベーターにレストランに高層ビル、初めて見るものばかりの珍道中。そのてんやわんやの様子を想像するだけでも可笑しくなってきますよね。たぬきの姿をしていても、人間の姿で目を丸くしていても、どちらも愛嬌たっぷり。なんだかこんな人たち、知っている様な気もしてきます。もしかしたら、どこかで本当にこんな出来事が起きているのかも!? 懐かしくて新しい、どの世代でも楽しめる絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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