絵本を開けば、そこに立っているのは一本の木。真っ白な雪で覆われた地面にしっかりと根を据えて、太い幹からはたくさんの枝が伸び。葉っぱ一つない枯れ木となってもその姿は思わず見とれてしまうほど実に堂々と頼もしく。
そう、この物語の始まりは冬の景色です。
やがて、地面の下で眠っていた動物たちが目覚める頃、枝は芽をふき、鳥が新たな巣をつくりにやってきて、周りの草花も咲きはじめ。気が付けば大木はすっかり青々と繁り、小さな動物たちの活動の拠点となっていて。その清々しい季節が過ぎると、たくさんの実をつけ、紅葉をし、小鳥たちは巣立ち、動物たちは巣ごもりの準備を始めるのです。そしてまた冬が訪れて……。
季節の移り変わりとともに、自身もその姿を大きく変化させながら、ずっと動かずに立ち続けている大きな木。イタリアの人気作家イエラ・マリにより描かれた、グラフィカルでありながら抒情的で、ため息の出るような美しい自然の景色を眺めながら、私たちは、そこに住む小鳥や動物たちの生態を観察し、生命の根付く力強さとその愛情を全身で受け止めるのです。
絵本の中に文字は何もありません。それでも、じっと耳をそば立てれば、葉のこすれる音や鳥のさえずり、吹き抜ける風のうたが聴こえてくるようです。開けば木はいつでもそこにいて、季節はいつでも動き出す。手元に持っておきたい絵本の一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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