「耳なし芳一のはなし」は小泉八雲の数多の怪談話の中でも、もっとも知られた作品だろう。
盲目でありつつも琵琶の名手であった芳一のところにある晩武者が現れ、芳一をあるところへと連れていく。
そこで芳一は壇之浦での源平の戦いを語り、賞賛を得るのだが、この日からそれが度重なることになる。
しかし、この時の聞き手たちは平家一門の亡霊で、芳一は彼らに取り憑かれていたのだ。
そんな芳一に寺の住職がお経を彼の全身に写経するも、耳にだけ書くのを忘れ、
そのために芳一は亡霊に耳だけとられてしまうという話。
有名な話だが、絵本にするのはなかなか難しいと思えるが、
幻想文学の評論家で有名な東雅夫さんが編纂した「八雲えほん」の一冊として刊行された『ミミナシホーイチ』は、
芥川賞作家でもある円城塔さんの翻案がすばらしく、
子供でも読める巧みな文章で出来上がっている。
例えば、写経を全身にほどこされた芳一のもとに亡霊がやってくる場面では、
「ホーイチ」という呼びかけがただ繰り返される表現になっていたりする。
こういう巧みな文章は、
小泉八雲の創作の際に「門を開け」と武者が呼ぶところ、
それでは強みとならないところ、八雲の妻であるセツが「開門」という一言にした挿話と似ている。
どんな言葉を選びとるかで、作品自体の印象がかわることのあかしだ。
この絵本の絵を描いたのは、長田結花さんという若手イラストレーター。