手にした絵本のずっしりとした重み。
灰色の曇り空から雨は静かに里山に降りそそぐ。
雨に濡れた木の枝には黄色い実が三つ。雨粒を避けるように鳥が群れをなして飛べば、虫はじっと雨が止むのを待つ。足元の地面を見下ろすとガマガエルが姿を現し、湿った草の中で身を潜める狐が辺りをうかがっている。
Rain won’t stop me.
Wind won’t stop me.
雨ニモマケズ 風ニモマケズ
Neither will driving snow.
雪ニモ
Sweltering summer heat will only
raise my determination.
夏ノ暑サニモマケヌ
With a body built for endurance,
a heart free of greed,
丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク
I’ll never lose my temper,
trying always to keep
a quiet smile on my face.
決シテ瞋ラズ イツモシヅカ二ワラッテヰル
宮沢賢治が最後に手帳に書き記した言葉が、今ここで英訳と共に蘇ります。
翻訳を担当された詩人のアーサー・ビナードさんはあとがきにこう書いています。
「雨ニモマケズはちっとも古くなっていない。」
豊かな実りをもたらす里山での質素な暮らしぶり。私たち現代人がその時代の日本の暮らしに想いを馳せることで、ようやく初めて賢治が本当に感じていた気持ちを理解することができるのかもしれません。ビナードさんの英訳から、情感たっぷりと日本の里山を美しく再現したのは、アニメーション作家の山村浩二さん。四季を通じて姿を変える里山。夜は漆黒の墨のように暗闇がひろがり、山の中に足を踏み入れれば畏怖の念を感じます。草木や生き物たちが生きるために命をけずり、人間は生活するために里山と共に暮らしていたのです。足元からのびる自分の影の下、踏まれても踏まれてもしっかりとその地に根をはり生きているタンポポが最後の言葉と一緒に描かれているのがとても印象的です。
今、しっかりと噛みしめて読みたい絵本です。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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