ぼくは朝、手紙を書こうとしたんだ。でも、なんて言えばいいのか、わからない。だって、おばあちゃんの家に行った時、おばあちゃんはあんまり疲れすぎていて、少しも動かなかったから。ぼくは、なんにも言えなかったんだ。なんにも……。
きつねのぼうやが思い出すのは、おばあちゃんと一緒につくったもののこと、世界のてっぺんにのぼった時のこと、大発見をしたり、冒険をした時のこと。思い出が次から次へとあふれだす。けれど、とうとうおばあちゃんは行ってしまった。もう帰ってこないって、ママは言う。
「ママの いうことなんか、しんじない。」
大切な人と別れる時の悲しみは、誰にも説明しようがないもの。ぼうやにとっても、それは同じ。おばあちゃんと過ごした日々をたどりながら、心がおしつぶされそうになりながら、それでも時は流れる川のように過ぎていくのです。
ご自身も「おばあちゃんに伝えたいことがあった」というカナダの作家、ジャン=フランソワ・セネシャルさんによる文章を、岡田千晶さんがきつねのぼうやの気持ちやまわりの自然の風景を優しく包み込むように描き出します。その繊細な表情の変化や仕草の一つ一つが愛らしく、だからこそ、切実な気持ちがまっすぐに伝わってきます。
最後に、ぼうやがやっと言えた言葉とは? いつか上を向いて、おひさまの光を感じられるようになれたらいいね。そんな気持ちとともに贈りたくなる絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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