人間のまちにすむおじさんから、山のきつねの子にこづつみが届きます。中に入っていたのは、銀色のコインときのみ。
「次の日曜、バスにのって遊びにおいで」
きのみはバス停の数だけ入っています。ひとつ停まるごとに、ひとつぱくり。これなら間違えないでしょう? おじさんは言うのです。
日曜日、きつねの子はおじさんのように人間の姿にばけると、道のむこうからやってきたバスに乗り、一番うしろの席にすわります。初めてのバスです。きつねの子は過ぎていく景色をよくながめ、バスが停まるたびにきのみを口に入れていきます。ところが七つ目のバス停で……。
ワクワクしていた気持ちが不安に変わり、急に心細くなって涙があふれてくるきつねの子。バスから差し込む光の変化や、知らないまちのにぎやかさが緊張感を高めていきます。心情が読者にまでしっかりと伝わってきたその時、目の前に広がったのは、見たことのない光景。「わあ!」美しさに思わず声をあげてしまうのです。
この小さな冒険の中でゆれ動く、きつねの子の視点や、見守る大人たちの様子を繊細に描き出しているのは、はせがわさとみさん。そして、一つ一つの場面を忘れられない情景として、私たち読者の記憶にしっかりと刻み込んでくれる絵を描いているのがnakabanさん。この二人の絵本作家による贅沢なコラボレーション。存分に味わってみてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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