
くまの親子が、まちへポップコーンを買いにいきました。 道路の横断歩道のところまでくると、信号は、赤。車がどんどんとおっていきます。 くまのとうさんは、ころあいを見はからって手にしていたステッキをふりあげ、信号をさして「えいっ。」といいます。 すると、どうでしょう! 信号が青にかわったのです。 くまの子は心のなかで感心しました。 (ふうん。うちのとうさん、すごいんだ。「えいっ。」ていえば、しんごう、かわっちゃうんだものな。)
とうさんが「えいっ。」というたびに、こんどは信号が黄色になったり、夕暮れの空に星が出たり。 とうさんの声は魔法の声。ステッキは、魔法のつえみたい……? 子どもはわくわくしてきちゃいますよね。 でもね、くまの子はだんだんわかってきたみたいですよ。 家にかえる電車のなかで、だまってなにか考えていたくまの子は、とうさんに「ぼくのいちばんすきなひとをだすよ。」と宣言します。 「えいっ。」というかけ声と同時に、くまの子がうちの玄関のベルをおすと、中から出てきたのは……?
父と子ども、ふたりでお出かけする、たのしい時間のお話。 作者、三木卓さんのみじかく詩的な文章は、ほのぼのした父子のようすや、会話のやりとりに効果抜群。 思わず頬がゆるみ、にやっとしてしまいます。 「こくご」教科書に掲載された名作が、高畠純さんの絵で描きおろしの絵本になりました。 高畠純さんのイラストレーションによって生まれた、黄色いシャツにオーバーオール、ハンチング帽をかぶったチャーミングな「とうさん」をお見逃しなく。 とうさんそっくりの仕草でポップコーンを口に放り込み、おどろきのまなざしでとうさんを見つめる、くまの子の表情にも注目ですよ。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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お父さんとよむ絵本
クマの子とお父さんが町へ出かけます。「えいっ」というまほうのかけ声で、信号を青信号に変えてみせるお父さん。 「お父さんってすごい!」とクマの子は尊敬のまなざし。 でも、色々なものに「えいっ」とまほうをかけていくうち、クマの子も何か気づいたようです・・・。
ゆったりしたお散歩タイム、日常から離れたチャーミングな時間をえがく絵本。
● 編集者コメント
三木卓さんが、ご自身のお子さんとのおさんぽ体験を元に書かれたそうです。 さりげない日常を描き、オチも幸福感に満ちて、何度も読み返したくなる知的な話でもあります。 こくご教科書に掲載の名作が、描きおろしの絵で絵本になりました。

小さい頃、お父さんが世界最強と信じて疑わなかった頃の気持ちを思い出しました。
お父さんと子どもの世界はくっついています。たのしいいたずらやふざけっこは、いつも父と一緒でした。裏山の噴火に備えて買出しに行こうとか、台風のあとのドライブでみつけた大きな水たまりを踏んでみるとか、ガス欠だ!と山頂の公園からエンジンをかけない車で坂道を下りてくるとか、誘拐されたお母さんを助けに行くとか…非日常的なごっこ遊びやいたずらは、必ず父が共犯者でした。いたずらをするとき、父と私と弟は以心伝心でした。信号が青になるのも、おなかがすいたころにおそば屋さんが見つかるのも、洗車のお手伝いをしたときにシートの隙間から100円玉がみつかるのも、サンタクロースが自分の好みを知っているのも、みんなお父さんが世界最強で無敵だからでした。大人になった今、それはみんな種明かしされてしまいました。父と思いきり楽しんでいるとき、母が困ったような顔をしていたわけもわかってしまいました。それでも、できることなら父のような親になりたいと思う自分に気がつきました。
副作用?として「世界最強のお父さん」になりたくなるかもしれません。
いろんなことを思い出したり考えたり…ジュモンのような「えいっ」でした。 (ごまねこさん 40代・その他の方 )
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