「そのむかし、剣をたずさえたクマの兵士がおりました。とてもけだかい兵士でもありました」……と昔語り調で始まるおはなし絵本。模様の刻まれたつるぎを持ち、かたびらを身につけて胸をはるクマはかっこいいのです。「オレさまの剣で きれないものはない!」となんでも切り刻むうち、クマは森中の木を切り倒してしまいます。
そこへ大水が流れてきて、クマの住む砦が壊されます。いったい誰が壊した? と犯人探しに出かけるクマ。しかし傷ついたバビルサに会い、矢を射ったキツネに会い、キツネの果物を食べ尽くそうとした鳥たちを問い詰めるうちに、自分の行動が及ぼした影響について知るようになるのです……。
イタリアの作家ダビデ・カリ氏と、エストニアの画家レジーナ・ルック-トゥーンペレ氏がタッグを組んだ、寓話的な絵本。クマが切り刻むキノコやベリー、地面や動物たちが身にまとう洋服もどこかエキゾチックで美しく、見ごたえがあります。テーマは巡り巡って私たちに返ってくる環境破壊の話のようにも、紛争や戦争の犯人探しのようにも思えます。
漫画家ヤマザキマリさんが初めて翻訳した絵本として、話題になった作品。「わたしたちは思い通りにならないことを受け入れるのが不得手です」というヤマザキさんのあとがきが胸に沁みます。最後は、名誉というおごりを捨てる勇気をもったクマ。私たちはクマになれるのか? 考えさせられる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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