ボタンちゃんは、まるいお顔の女の子。
アンナちゃんのブラウスの、いちばん上にとまっています。
ある日、ボタンちゃんをブラウスにとめていた糸が、切れてしまいました!
ころころと部屋の中を転がっていくボタンちゃん。
おもちゃ箱の後ろ、洋服ダンスの裏、ベッドの下。
ボタンちゃんが転がった先で待っていた出会い。
それは、かつてアンナちゃんと仲良しだったけれど、今では忘れられたものたちとの出会いでした。
うすぐらい場所でそれぞれにひとりきり、さみしくて泣いている彼らに、そっと寄り添うボタンちゃん。
みんな、アンナちゃんと過ごした日々を、なつかしんでいるのです。
でも、成長した今のアンナちゃんを知っているボタンちゃんは、彼らにやさしく語りかけます。
「今のアンナちゃんがあるのは、あなたのおかげなのね」
『博士の愛した数式』の作者、小川洋子さんが描く、思い出の中で生きるものたちの物語。
その多くは忘れられていくけれど、いろいろなものに育まれながら、子どもは大きくなっていく。
やっぱりさみしいけれど、それはすごく前向きで、あたたかなこと。
「あなたのおかげ」と語るボタンちゃんの言葉が、やさしく、切なく、心にしみてきます。
全体的に色合いが淡く、光とそれの落とす影が特徴的に描かれているので、一見するとさみしげな印象の作品ですが――。
アンナちゃんが飲むメロンソーダのグリーン。
アンナちゃんの夢に出てくる遊園地の明かり。
ボタンちゃんのほっぺたのピンク。
全体の色調が穏やかだからこそ、ときおりふっと現れるあざやかな色が、ことさらに美しく映えて目を引きます。
やがてボタンちゃんのとまっているブラウスも、アンナちゃんには小さくなってしまいました。
でも、ボタンちゃんも、思い出の中のみんなも、さみしくはないのでした。
もう彼らには、にぎやかな居場所ができたからです――。
(堀井拓馬 小説家)
続きを読む
ボタンちゃんは、丸いお顔の女の子です。ボタンちゃんはアンナちゃんのブラウスの一番上にとまっています。ボタンちゃんの仲良しは、なんといってもボタンホールちゃんでしょう。ふたりはいつも一緒です。ところがある日、大変なことがおこりました。ボタンちゃんをとめていた糸が切れてしまい、ボタンちゃんは転がりおちてしまいました。
ボタンちゃんは、子どもべやのゆかをすすんでいきます。やがてたどりついたのは、おもちゃ箱のうらがわです。するとどこからか小さな泣き声がきこえてきました。泣いていたのはガラガラです。「アンナちゃんはもう、ぼくのことなどわすれてしまったのでしょうか」というので、ボタンちゃんはガラガラをなぐさめてあげました。ふたたびボタンちゃんがころがっていくと、今度はよだれかけにあいました。
『博士の愛した数式』などで人気の小川洋子初の絵本。ボタンちゃんと忘れられた「思い出たち」との心温まる物語。
続きを読む