頭にぼうしをのせた、ちいさな魚が泳いでいます。
「この ぼうし ぼくのと ちがうねん。とってきてん。」
ちいさな魚は、おおきな魚が寝ている間に、盗んだのです。
ちいさな魚にぴったりのかわいいぼうし。
それをかぶったまま、海藻のジャングルを目指して逃げているのです。
暗い水の底、ちいさな魚は誰にともなく言います。
「きっと まだ ねてるわ。」「ぼくのことなんか あやしめへんわ。」
けれどおおきな魚は、もう起きています。そして完全に気づいています。
逃げるちいさな魚にせまりくるおおきな魚。
恐怖の音楽が聞こえてきそうな緊迫感です。
読み手は、ちいさな魚がしゃべればしゃべるほど焦ります。
だって、すぐそこまで追ってきているんです、おおきな魚が!
この作品は、独特のユーモアにあふれる「どこいったん」シリーズの2作目。
2013年コルデコット賞大賞受賞作品です。1作目の『どこいったん』に引き続き、日本語訳は人気絵本作家の長谷川義史さん。
スリリングな展開と、長谷川さんならではのユーモラスでどこかとぼけた大阪弁とのギャップが、
全体の緊迫感をこれでもかと盛り上げます。
『どこいったん』は、ぼうしを盗られたくまが、ぼうしを捜すストーリーでしたが、
今度は、盗った側、追われるほうが主人公です。
水底の静けさを引き立てる黒い背景と、魚から立ち上る小さな泡、美しい海藻。
まるで映像を見ているように、ストーリーにひきこまれてしまいます。
そして1作目同様、ドキッとする結末が待っています。
結末を誰も語ってはくれません。
「これって、こういうこと・・?!」と、読んだ後きっと誰かと話したくなりますよ。
1作目は森の中、今回は深い海の中、という対比も面白く、揃えて持っておきたいシリーズですね。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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