大きな駅から特急列車に乗り、山の麓の駅で急行列車に乗りかえて、つぎに普通列車に乗りかえて……出発のときは「しゅっぱつ しんこう!」が合言葉。おじいさんとともだちが待つ小さな駅までの小旅行は、退屈しません。駅やホームでの乗客や車掌さん、電車が通る街に住む人の様子、電車が山間を抜ける爽快感を、目に映るままに克明に描きます。電車でお出かけする前に読みたい、心が躍る乗物の絵本。
電車好きの息子に初めて読み聞かせた電車絵本がこの本でした。0歳と10か月のことでした。
内容的に1歳未満の子どもにはまだ難しいかなと思いましたが、試しに読んでみたところ、予想以上に大喜び。そのはまりっぷりはすさまじく、身振り手振りで繰り返し繰り返し読むよう要求しました。それ以来3歳までに読み聞かせた回数は優に100回を超えると思います。
母親的にはかわいらしい挿絵の絵本を手元に置いておきたいものです。でも、この本は、なんだか鉄道オタクが好みそうなリアリティのある挿絵。初めはちょっとなあと思いました。
でも、ここまで息子が愛した絵本です。気付けば母親としても最も思い出深く、大好きな絵本となっていきました。
お母さんとみよちゃんが、特急「はつかり」に乗って出発し、どこかの駅で急行電車に乗り換え、さらにどこかの駅で普通列車に乗り換えて、かなり山奥にあるおじいさんの家の最寄りの駅につきます。物語はこれだけですが、すっかり鉄道オタクへと成長した息子は、あるとき、この駅はどこなのかと質問してきました。
というわけで調べてみました。ネットサーフィンしてたどり着いたのは、山本忠敬さんの公式HP。そこには、山本さんがこの絵本を書くために取材に行った経緯が書かれていました。
この本が発売されたのは1982年。(東北新幹線開通前のこと。試運転中の東北新幹線が背景に描かれています。)
はつかりに乗るのは仙台駅、急行列車に乗り換えた山のふもとの駅は盛岡駅、普通列車に乗り換えた山の中の駅は茂市駅。急行列車は山田線、普通列車は岩泉線、そして、最後、小さい駅である浅内駅がおじいさんちの最寄り駅なんだそうです。
山本さんは、この絵本は、旅の心象風景であり、架空のお話であると書かれていますが、実際の駅は挿絵そのものです。
この本と出会って以降、息子の要望に応え、200冊を超える電車絵本を読み聞かせてきましたが、これほどまでに息子の心を捉えた電車絵本はその後ありません。今息子は5歳となり、どうやらこの絵本を卒業するときが来ています。この本にはずいぶんとお世話になりました。感謝の気持ちでいっぱいです。 (Tamiさん 40代・ママ 男の子5歳)
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